最新のケーススタディ 2014年8月25日号 掲載
Q. アーティストのH氏は、これまで約4年間、自分の作品制作に没頭してきた。自分の内面で捉えたものを作品化するまでの道のりは大変であったが、H氏は果敢に取り組み、やっと個展を開けるだけの数の作品が完成した。さて、個展をどこでするか。H氏には、これまで所属していたギャラリーがあるが、出来上がった作品には不向きであることから、新しい場所を探すことにした。そして、理想的ともいえるギャラリーを見つけた。そこは、H氏が以前、アートのイベントで交流したことがある著名な芸術家M氏が経営しているギャラリーだった。その時、H氏は作品を大変好意的に見ていただいたこともあったので、早速、メールで問い合わせてみたが、紋切り型のお断りの返信が届いてしまった。がっくりきたものの、やはりそのギャラリーが諦めきれない。M氏が作品を見て、ギャラリーは貸せないということなら諦めもつくが、このままでは引き下がれない。どうしたらいいだろうか。
A・H氏 40代 東京
A. (1)
現状 |
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H氏は、「教皇」がどうしても役者にしか見えないという。形式的に役割を演じているようで、偽物っぽく感じてしまうそうだ。実際、その通りなのだろう。著名な芸術家M氏の会社であるが、M氏が直接経営に携わっているわけではなく、業務はビジネスの専門家に任せ、M氏自身は創作活動に専念しているようだから。M氏の名前を冠した会社であるが、会社に問い合わせても、直接対応するのは事務担当の人であって、アートに詳しい人ではない。かつてイベントで、M氏がH氏の作品を好意的に評価したことがあるなど知る由もないだろう。メールで断りの返事を送ってきた人は、自分の職務を忠実に果たしているに過ぎない。でも、カードは正立なので、H氏がこのギャラリーとコンタクトを取ったことは正解であることがわかる。
(2)
経緯 |
現状 |
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経緯は「13」で、H氏はカードの人物にこれまでの自分の姿を見た。創作にあたって、H氏は自分の内面を掘り下げ、全身全霊を注ぎ込んできた。まさに我が身を削ぎ落すような作業だった。こうした創作活動は、すぐお金に反映されるわけではないので、物心共にギリギリまで自分を追い込むことになる。H氏は、安易さに流されず、この苦しい作業に立ち向かったからこそ、本人も納得の作品を作り出すことができた。Hさんの精神的な充足感が如何に大きいかは、「13」の空色の背骨が、豊かさをあらわす麦の穂で描かれることからわかる。また、H氏の「13」の体験は、H氏の妻にとっても、別の意味で「13」であったといえる。同じアーティストでもある妻は、H氏の持つ可能性を理解し、物心共にずっと支えてきたからである。
(3)
展望は「恋人」で、3人の人物に目が行く。真ん中の男性がH氏である。3人の人物が直接話し合っていることから、ギャラリーとの交渉は、メールや電話ではなく、対面の方がいいだろう。意中のギャラリーの担当者と形式的な話しかできないのなら、人脈をたどることも大切である。狭い業界なので、知り合い・関係者に直接会って、事情を話したらよい。思いがけない所で、意中のギャラリーとの縁ができるかもしれないし、M氏に作品を見てもらうチャンスが掴めるかもしれない。とにかく、会って、自分の想いを伝えることが大切である。人に働きかけることで、ひょっとしたら別の理想的な会場が見つかるかもしれない。いずれにしても、カードは正立なので、ぴったりのギャラリーと縁ができるだろう。
アドバイスカードは「斎宮」。「斎宮」の持つ本が目に入るが、H氏には、作品の目録のことだとわかる。H氏の作品は大きいので持ち歩くことができない。話を進めるには、作品のイメージが伝わるような写真を何枚か取り、作品に込めた思いなどを付け加えて、意図が伝わりやすい目録を作る必要がある。控えめで冷静な「斎宮」を見ていて、H氏の心に目録作りの適任者として浮かんだのは妻であった。H氏の作品の良さを一番よく理解しながら、H氏本人とは違う客観的な目線で表現する力を持っている。目録作りの実績もある。誰よりもいち早くH氏の才能を見抜き、今日まで二人三脚でやってきた妻なら、喜んで手助けしてくれるに違いない。
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