Q
Aさんは、もう着なくなったブランドの服をたくさん持っている。自分の大好きなブランドで、デザイナーとしてバリバリと仕事をしていた若い頃は、戦闘服を身に着けるような感覚で、そのブランドの服を纏っていた。仕事に打ち込む自分の気持ちと洋服がぴったりかみ合っていたおかげか、職場で難しい仕事を割り振られても、臆することなく引き受け、成果を出すことができたそうである。時には、給料の大半をそのブランドにつぎ込むほど気に入り、Aさんにとっては、戦友と言ってもいいような存在だった。
Aさんの仕事人生で大活躍したブランド服であるが、やがて手掛ける仕事の変化とともに、着る機会が少なくなり、今では洋服ダンスの中で眠っている。もともと生地も仕立ても高品質で、Aさんも丁寧に保管してきたので、全く傷んでいないが、もう着ることがないなら、思い切って断捨離してしまおうかと迷っている。今がその時なのか、あるいは、もっとよい対処法があるのか、タロットに聞いてみることにした。
Y・Aさん 60代 東京
A
(1)現状
現状 |
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①現状には「正義」Rが出た。Aさんは、大きな剣を持つのは自分であると思った。天秤にかけているのは、「もう着ないのだから、スパッと処分してはどうか?」と、早い処分を促す自分と、「一枚一枚に思い出がたくさん詰まっているのだから、処分は急がない方がいいのでは?」と、自重を勧める自分だ。カードの逆向きが示すように、相反する思いの中で、心は決まらない。Aさんは、迷う今は、断捨離の時ではないと思った。
(2)経緯
経緯 |
現状 |
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②経緯は「愚者」である。意気揚々として、新しい世界(旅)に踏み出す姿を見て、Aさんはピンと来るものがあった。それは、数か月前、「マルセイユ・タロットを勉強しよう!」と急に思い立ち、学び始めたことである。それまでは、しっかり学ぶことなど考えもしなかったのに、何故か、その時スイッチが入ったのである。しかし、いざ始めてみると、想像していたものとは大違いで、Aさんは、自分の中で新しい境地が開けて来たことを実感している。思わず絵柄の通りだと納得した。
(3)展望
③展望に出た「女帝」Rの視線は、「正義」Rに向けられている。「今が断捨離の時でないなら、たくさんある洋服をどうしたらいいかしら」と思いあぐねるAさんだ。カードは逆向きなので、すぐにはよいアイデアが浮かばないかもしれない。
(4)
④「正義」Rの対策カードは「節制」が出た。天使が2つの壺を巧みに操りながら、壺から壺へ何かを移し替えている。Aさんは、絵柄を見て、断捨離で一気に処分するのではなく、必要に応じて活かしていくのがよいのだと思った。手元にある服は着なくなって久しいが、流行を追ったものではないので、その気になれば活かせる場面はけっこうあることに気づいた。
(5)
⑤「節制」の注目カードは「恋人」。カードは、今でも着ることができそうな服を選び出してはどうかと語っているかのようだ。Aさんも、そうしてみようと、すんなり心が決まった。
(6)
⑥「女帝」Rの対策カードは「力」で、Aさんは蜂に注目した。蜂はグノーシス(叡智)の象徴だ。蜂を見つめているのは、もちろん自分である。絵柄を見て、昔の服をどう活かしたらいいのか、本当は自分にはわかっているのだと思った。それを見つけるには、もっと自分に向き合わなければ。
(7)
⑦「力」の注目カードは「斎宮」となった。静かに自分の内面と向き合う姿であるが、「力」のカードとあわせると、斎宮の視線もまた蜂に向けられているように見える。Aさんは、かつて愛用したブランド服に対面することは、自分の人生を振り返ることと同じだと思った。単なる物ではない。タロットを学ぶことで開けた新境地で、服を通して人生を見つめ直すことは、今後の人生設計にもヒントを与えてくれるだろう。
アドバイスカードも「力」である。智慧によって内面が生き生きとすれば、服を着るといった日常的なことも、単なる形式的なことではなくなる。まずは、服とともに自分の歩んできた人生を振り返り、今の自分に合った着こなしをしてみようと思った。Aさんは、服の落ち着きどころが見えて、ほっとした。
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