Q.和菓子の老舗メーカーに勤務するIさんは、かつてはデパートに入っている店舗の販売員だった。その販売実績が社内で認められ、今では地域全体を担当する中間管理職に就いている。2ヶ月前、本社から新しい指令を受けた。「担当地域の駅ビルにある店舗の売り上げが年々下がり、このままでは閉鎖に追い込まれかねない。早急に、従業員の意識改革を図り、売り上げを改善せよ。」という内容であった。Iさんは、現場の従業員4人と個人面談しながら努力してきたが、まったく効果なし。変化の兆しも見られない。自分なりに頑張ってきたつもりのIさんは、この現実にショックを受けている。どうすれば打開できるだろうか?(M・Iさん
宮城 40代)
A.
(1)
現状 |
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にぎやかな駅ビルはまさに「世界」である。本来ならさまざまなテナントが集まり、大勢の人が楽しげに買い物をするところである。でも、逆向きに出ているので、店としてうまくいっていないことがわかる。聞けば、売り上げがテナントの中で最下位だそうである。真ん中の人物を4つの生き物が取り囲む絵柄は、何とか皆の気持ちを一つにまとめ志気を高めるべく働きかけるIさんと、その働きかけにもかかわらずバラバラな4人の従業員そのままである。個人面談をするときの個々の反応はいいのに、仕事が始まると、どの従業員もマンネリ化して、売り上げアップに向けて一致団結するにいたっていない状況だ。
(2)
経緯 |
現状 |
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経緯は「女帝」。Iさんだ。物腰が優雅で、笑顔が魅力的なIさんは売り場に立つことが大好きだった。実績も上げてきた。だから、本社から指令を受けたとき、どうすれば売り上げが上がるか、何をどう改善すると売り場が活性化するのか、アイデアは次々と出てきた。自分の経験から改善できるという自信もあった。やる気満々で問題の店舗に向かったのである。正立で出ているので、ここまでのIさんの取り組み方はとてもよかったことがわかる。
(3)
展望は「斎宮」が出た。「女帝」が王笏を持っているのに対して、「斎宮」は何か文書を両手で抱え、誰かに見せているようにもみえる。具体的に誰が何をすべきかがわかるように一覧表を作るとか、売り上げの推移を実際に見せて、店が危機的状況にあること、閉鎖になったら皆が職を失うことになること、なんとしても業績を回復して閉鎖を回避しなければならないことをデータを示しながら、現場の意識改革するIさんの姿である。Iさんの意図を十分浸透させるには、口頭ではなく活字にしたほうが有効である。
(4)
「世界」Rの対策カードは「運命の輪」である。ここでIさんの目に飛び込んできたのは輪の上にどっしりと位置するスフィンクスだった。回る輪にいるのが従業員なら、皆の上司に当たるIさんは一段上にいるスフィンクスになる。剣を持ち、毅然とした態度で臨むスフィンクス。回る輪の上にいるから、日々めまぐるしく変わる状況に翻弄されずに的確に判断でき、指示もできる。
「自分はこんな風に接してきたかしら?」と考えたとき、思い当たることがあった。4人の従業員は、かつて自分の先輩に当たる店長であったり、長年一緒に販売の仕事をしてきた仲間であったため、どうしても遠慮が先立ち、やんわり改善をお願いするだけだった。従業員も顔見知りなので、上司の指導というよりかつての仲間との懇談ぐらいにしか考えていなかったのかもしれない。指導になっていなかった・・・。カードを見て、Iさんは自分にマネージャーとしての自覚が欠けていたことを痛感したのである。
皆が変わってくれないことで行き詰っていたIさん。先程までは絶望的な状況にため息をつくばかりだった。ところが、カードを見るうちに、うまく行かない原因はひょっとして自分の接し方に問題があったかもしれないと素直に思えるから、不思議なものだ。組織の中では、立場によって果たすべき役割も違ってくる。誰に対しても優しいIさん。これからは優しいだけでなく、中間管理職の責務を果たすことも大切だ。スフィンクスのイメージを焼き付けて、もう一度現場の指導に挑戦することにした。
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